これで満足!お役勃ち日記!

いろいろ@manzoku238

満足元カノシリーズ1章『S』〜デート編〜

母方の親戚のお盆の集まりは毎年8月15日だ。はっきりと決まってるわけではないが、親戚の休みの都合でだいたいその日に祖母の家に集まる。

 


花火大会が終わり、次のデートの日を彼女と相談していたところ部活の関係で8月15日しか空いていないということだった。これは困った。親戚の集まりの日じゃないか。
幸いにも、というべきだろうか。デートの行き先と祖母の家が近かったため帰りに寄ることにした。デートは少し早めに切り上げなければならないが仕方ない。
ごめんね、と書いたメールを送信する。彼女からの返信は予想もしていなかったものだった。


「私、着いて行くよ。満足くんの親戚なら会ってみてもいいよ」


ひっくり返るかと思った。というかひっくり返った。向こうの親には会ったしそう気にすることでもないのか?と思ったけれど親と親戚一同ではスケールが違う。
混乱した頭で返信し、親戚の話をした。デート当日を色々な意味でドキドキして待っていた。


当日の朝、待ち合わせより駅に早めに到着。彼女の姿はない。ひたすらに暑い。
待ち合わせの時間に差し掛かろうかとしていたところ、凄まじい速さでロングスカートで自転車を立ち漕ぎしてくる彼女が見えた。凄い形相だった。
彼女曰く、おばあちゃんを撒くのに時間がかかった上にチェーンにスカートを巻き込んでしまったとのこと。朝から大変にもほどがある。彼女の祖母は異性交遊にやたら厳しいと聞いたので気づかれると確かに面倒だ。

2人とも汗だくだくで電車に乗り込んだ。彼女はそれでも汗臭くなく、むしろ柑橘のいい匂いがした。


デートでどこに行ったかは正直あまり覚えていない。2人ともお金がなかったので昼飯はコンビニで済ませたこと、彼女はソルティライチブリトーとシャケおにぎりを買っていたこと、アニメ関連のショップに行ったことぐらいだ。自分が買ったご飯は覚えていないしアニメショップで何を買ったかすら覚えていない。


夕方前に祖母の家に向かった。2人並んで歩く。暑い。胸の鼓動が早くなる。これから親戚一同の集まりに彼女を連れて行くのだ。
ふと彼女を見ると顔がかたまっていた。怒っているのだろうか。だとしたら申し訳ない。謝らなければ。


「大丈夫?無理そうなら近くで待っててもらってたらすぐ出てくるよ」

「大丈夫だけどなんか急に緊張してきた…」


それはそうだ。僕が逆でも恥ずかしいし緊張する。しかし彼女は笑っていた。なんだか僕もつられて笑ってしまい、2人で笑った。緊張はどこかに行ってしまった。


インターホンを押すと叔母が出迎えてくれた。かわいいお嬢さんをお連れで、と言われた瞬間ちょっとだけ恥ずかしくなった。
祖母の家に行ったときは最初に仏壇に手を合わせることが習慣になっている。軽く挨拶をすませ親戚の集まるリビングを通り、仏壇がある隣の部屋に向かう。

祖母の家に来たときはまず仏壇に手を合わせるのが昔からの習慣だ。正座して仏壇に向かう僕の横にちょこんと彼女が座る。かわいい。
手を合わせた後リビングに戻る。親戚一同の中に僕と彼女。もちろん質問される。だんだん緊張してきた。彼女も緊張している。


「あんたが緊張してどうすんの!」


母親に怒られる。いやそれはそうなんだけど緊張するだろ。連れてきたのは僕だししっかりしなきゃいけない。そこからは高校生なりに頑張った。たぶん。


彼女が夕方から予定があるそうで、適当なところで切り上げて帰ることにした。母親が駅まで車で送ってくれるらしい。車に乗り込む。母親は彼女にやたら話しかけている。恥ずかしいっての。

「なんで息子と付き合ったん?どこがよかった?」とか聞くな。ちなみに優しいところと言われた。嬉しい。


電車に乗り込む前にどうだった?と聞いたら「緊張したけど楽しかったよ。みんないい人だった」と言ってくれた。安心した。


「いつかちゃんと挨拶にいかないとね」


ドキッとした。未来のことを想像してしまう。それから彼女は口数が減ってしまった。僕もなんだか恥ずかしくて、変なことを口走ったような気がする。


地元の駅に着き、彼女の家まで並んで自転車を押して歩く。陽が落ちて行く。もうすぐデートが終わってしまう。あと少しで彼女の家に着く。名残惜しい…その時だ。


「家の前におばあちゃんいるみたい…見られたら困るからここでいい?」


なんてこった。しかし仕方がない。「またね」と言い、なんとなく寂しそうな彼女の顔を見送った。
いつかは彼女を結婚相手として紹介する。そんな未来への希望を胸抱き家路に着いた。嬉しさのあまり笑みが止まらない。いつかは結婚することになるのかと思うとワクワクしてしまう。
これが最後のデートになるとはもちろん思っていなかった。

 

ちなみにあとで聞いたところ彼女のおばあちゃんは僕と一緒に歩いてくるところが見えたそうだ。なんてこった。

 

よく考えたら花火大会で母親見つけて会いに行く彼女より俺の方がアホだったのでは?

予定の調整と舞い上がる気持ちには気をつけよう。

 

書いてたら青春時代を思い出して胸がドキドキしてきました。次でS編は終わりです。

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