これで満足!お役勃ち日記!

いろいろ@manzoku238

満足元カノシリーズ1章『S』〜告白編〜

2013年5月26日。これは僕に人生初の彼女ができた日だ。
夏の訪れを感じさせるくっきりとした青空だったのを今でも覚えている。

その日は日曜日だったが、部活動のため高校へと自転車で向かっていた。演劇の発表まで数日だが、練習のことなど頭にない。告白のことで頭がいっぱいだった。


告白する相手は中学の頃の同級生だ。Sと呼ぶことにする。
Sと僕にはHという共通の友人がいた。Sとはその繋がりでたまに話すぐらいの仲だったし、そもそもHのことが僕は好きだった。
ならなぜ高校に入って告白しようと思ったか。理由は1つだ。


彼女が欲しかった。

それだけだ。


Sとは卒業後もちょくちょくメールのやり取りをしていた。相談に乗ったりだとかアニメの話だとかそんな感じだ。
ソードアートオンラインっていうライトノベルが面白いよ」
ある日そう言われた僕は「これだ!」と思い、本を貸してもらうことを理由に家に行くことにした。その流れで告白することにしたのだ。無理がある。


Sは別の高校の吹奏楽部に所属していたため、向こうが終わり次第家に行くことにしていた。部室でメールを待つ。
やたらと大きい扇風機の回転音が響く部室で、同級生にこれからのことの話をした。盛大に盛り上げられたが緊張と暑さでそれどころではない。
混乱した僕は『カードキャプターさくら』の『Catch you Catch me』を扇風機を抱きながら歌うなどしていた。埃っぽかった。


連絡が来たので自転車に乗り込み、片道40分を爆走する。途中なぜかコンビニに寄り遊戯王のパックを開けた。当時高かった《水精鱗-ディニクアビス》のシークレットが出たのを覚えている。昂る気持ちを抑えSの家に着いた。

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※《水精鱗-ディニクアビス》。当時は3000円ぐらいした気がする。


家の入り口で『SAO』を渡され、ネタバレにならない程度に話を聞く。ふんふん、と頷くが緊張と暑さで全く内容は頭に入ってこない。そこから学校や部活の話をしていたが、よく覚えていない。


やがて日が落ち始めたころ、Sの家族が帰ってきた。まずい。タイミングを逃してしまう。と思ったが蚊取り線香を置いて家に戻っていった。まだチャンスはある。
しばらく話すと彼女は「一回着替えてくるね」と言って部屋に戻った。入れ替わりにSの弟が降りてくる。なんでや。
「俺お前のねーちゃんに今から告白するんだよ」
「マジで?ねーちゃん満足くんのこと結構話すし大丈夫やろ。頑張れ」
話したおかげで少しだけ落ち着いた。しばらく待つとSが着替えて降りてきた。
長袖のパーカーに中学の時の短パン。凄まじくかわいい。
弟は相変わらず元気だね。元気すぎて困る。なんて話をしていた。蚊取り線香はだいぶ白くなった。明るかった空ももう暗い。


「暗いしそろそろ戻るね」
「うん。…あのさ、話があるんだけど」
「なに?」
言うならもう今しかない。意を決した。
「君のことが好きだ。付き合ってください」
言ってしまった。もう引き返せない。漂う蚊取り線香のにおい。顔を両手で覆う彼女。
「えっ…?…うん。よろしくお願いします」
思わず叫びそうになる気持ちを抑え、あくまで冷静に返事をする。
「帰ったらメールするね。ありがとう」


自転車に乗り、手を振る彼女が見えなくなるまでこちらも手を振り続けた。見えなくなった瞬間嬉しさのあまりガッツポーズ。見慣れた帰り道の街灯がその日は一段と明るく見えた。
帰宅し、まず昼間当たった《ディニクアビス》をスリーブに入れた。やることの順番がおかしい。


「今日はありがとう。これからよろしくね」
なんて当たり障りのないことをメールで送る。振動とともに返信がきた。
「びっくりしたよ。満足くんはH(共通の友人)の事が好きだと思ってたもん。まさか告白されると思わなかったから嬉しくて泣いちゃった」
そんなこと言われたら僕の方が泣いてしまう。Hの話を少しすると、どうやら喧嘩して絶縁したらしい。両方と仲がいいので複雑な気分だが、嬉しくてそれどころではない。

 

そこから少しメールのやり取りをして眠りについた。これから始まる夏への期待を胸に抱いて。
しかしこれが忘れることのない夏の始まりだとは気づきもしないのであった…。