これで満足!お役勃ち日記!

いろいろ@manzoku238

満足元カノシリーズ1章『S』〜完結編〜

夏休みも残り数日だというのに、一向に涼しくなる気配は見えない。夏はまだ終わらないとばかりにセミも鳴いている。


先日のデートから数日後、彼女と一緒に星を見ながら話をした。部活のことを話し、よほど辛かったのか泣き出してしまった彼女を僕は抱きしめた。
なにがあっても彼女を一生守ろうと心に決めた瞬間だった。
星に満ちた空のように、僕の心はただただ希望に満ちていた。


その日は彼女を駅まで迎えに行く約束をしていた。用事を済ませ駅へと向かう。途中友達を見かけたので声をかけると「お前の彼女駅で見たぞ?」と言われた。
約束より早い。かなり早い。電車に乗るよ、とのメールも無かった。
「マジかよ、また今度な」と告げ自転車を必死に漕ぐ。景色とともに汗が流れていく。
駅に着いたが彼女の姿はない。まさかもう帰ってしまったのだろうか。
周りを見渡すと自転車置き場で自転車に乗ろうとする彼女の姿があった。
どうしたの、と声をかけたが彼女は自転車を押して行ってしまう。しかし自転車には乗っていない。一緒に歩いて帰ってはくれるらしい。


二人で何度も通った道を歩く。
口を閉ざし、ただただ歩く彼女。会話を切り出せない僕。空はだんだん曇り始めている。そういえば明日は曇りだと予報で言っていた。もうすぐ彼女の家に着く。言えなかった。何も言えなかった。
彼女が家に帰ってしまう。口を閉ざしている理由はやはりわからない。意を決して「何かあったの?」とたずねた。
「何もない」
彼女はそう返す。何もないわけがない。何もないならこんな態度はとらない。もう一度聞いても何もない。何もないとしか言わない。
「何もないならこんな風にならないでしょ」
思わず口走ってしまった。彼女は何もない、もう嫌だ、と子供のように泣きじゃくり始めた。
僕にはどうすることもできなかった。あまりに無力だった。落ち着いたら聞くよ。無理しないでね。そう言って帰ることしかできなかった。


あの日輝いて見えた帰り道の電灯がくすんで見える。空には星もない。なにもなかった。無力な僕には帰って寝ることしかできなかった。メールすら送れなかった。


次の日の朝目覚めると外は雨だった。雨だったから死のうと思った。ひどく気分が悪かった。家を出て車道に飛び出して死のうとした。飛び出せなかった。死ぬ勇気すらなかった。
押しつぶされそうな倦怠感をどうにかしようと薬局でカフェイン錠剤を買って飲んだ。しかし大して変わらない。その夜、錠剤数粒をコーヒーで流し込んだ。ヤケだった。少しでも気分がよくなるならそれでいい。死んだら死んだでいい。逃げの手段だった。そのまま眠り込んだ。結局夜まで連絡はなかった。


翌日の朝、締め付けられるような頭痛と吐き気に叩き起こされた。トイレにこもってひたすら吐いた。昨日はなにも食べていなかったため胃液だけが出てきた。
もう嫌だ。誰もいないところに行こう。どこか遠くへ逃げよう。遠く遠くへ逃げよう。好きだった歌詞を呟きながら遺書がわりの文を紙に書きなぐった。
ふらふらと外を歩いた。頭が回らない。持っていた錠剤を飲んだ。相変わらず頭の中をグルグルと鬱が走っている。このあたりで意識が飛んだ。


気がついたときは母に車の中で説教されていたような気がする。その後は確か家に帰り寝ようとした。眠れなかったしどこかに逃げてしまいたかった。
逃げてどうにかなるわけではないとわかってはいたけれど、逃げ出さずにはいられなかった。リュックサックに好きだった本を詰め込んで家を飛び出す。自転車をがむしゃらに漕いだ。海へ行こう。なぜかそう思ったが海になんてつくわけはなかった。
気がついた時には知らないところにいた。だいぶ遠くまで来たらしい。
コンビニで栄養ドリンクを買って飲みながらしばし歩いた。途端に吐き気がしてトイレに駆け込み嘔吐した。頭がガンガンする。カフェインのせいだろう。薬も摂り過ぎれば毒である。


どうにもならないとうなだれていると母から電話がかかって来た。今どこにいるの、と言われ近くの看板を見た。家から10キロほど離れた別の市であることを確認し伝えると早く帰って来いと言われた。
正気に戻り、吐き気と頭痛に襲われながら家まで10キロ近く自転車を漕いで帰った。途中何度も死のうと思ったがなぜかそういう時は死にたくない、と思い止まってしまうのである。不思議なものだ。


家に着いた頃にはもう動けなかった。家に着くと同時に母親に病院に連れていかれ点滴を打った。熱中症とカフェインの過剰摂取だ。動けるわけがない。
病院に響くBGMのピアノの音にすら苛立ちを覚え、今すぐ止めろと言いたくなったがろくに声も出ない。頭に雑菌がどうのこうので死ぬ、と話しているのも聞こえた。よくわからないがそれで死ねるならいいと思い眠りについた。
目が覚めても死んでいない。生きていることを実感するのがこんなにも嬉しくないとは思わなかった。

その後確か医者にしばらくカフェインの摂取を控えるよう忠告され帰路についた。余談ではあるが今もコーヒーはあまり飲めない。


夏休みはもう終わろうとしていた。通っていた高校は夏休みが終わるのが早いのだ。宿題は一切手をつけていなかった。
始業式の日、一切宿題をやっていなかったので相当怒られたが精神的にはそれどころではなかった。体育大会の練習ももう始まるらしい。まだ彼女からは連絡もなければこちらからも連絡していない。


次の日は土曜日だったので朝から友人と遊ぶことにした。少しでも気が晴れたらいいなと思ったのだ。宿題はやる気はなかった。
自転車に乗ろうとした瞬間携帯が落ちて画面の端にヒビが入った。幸先が悪い。雨も少し降り始めている。
友人と遊んだがイマイチ気分転換にはならなかった。その夜、引っ越していた友人が帰ってくるということだったのでその友人のところに泊まりに行くことにした。
話していると小中のことを思い出してだいぶ気が晴れて来た。気を取り直して明日からまた頑張ろう。そう思った時携帯に通知が来た。彼女からのメールだった。


友達にちょっとトイレ借りる、と伝え部屋を出てメールを開く。
「あれから考えたけどさ。もう無理、一緒にいられない」
おそらくそういった内容だった。今までありがとう。そう返信してすぐ消してしまった。
友人に今メールが来て別れたよと伝えた。不思議と先日までのような感情の氾濫は起きず、落ち着いた気持ちでさっきまでの話に戻った。そういえばあいつさ、と別れたばかりの相手の話をして笑ったりした。
体育大会の練習でバカみたいに騒いで、手をつけていなかった宿題に追われているうちに彼女のことは頭の中から薄れていった。セミの鳴き声ももう聞こえなくなっていた。


こうして僕の夏はあっけなく終わった。きちんと別れを告げる暇もなく、あっという間に走り去っていった。


以下あとがきです
僕は夏が大好きです。夏休みってだけでワクワクしてたし、現に楽しかったことがいっぱいでした。
元カノとのことも今でこそ笑えるけど当時は本気できつかったです。
そんな楽しいこともキツかったことも話のネタにして笑えるのが夏っていう季節の魅力なのかなと思っています。だから夏が大好きだ。
最後の方は記憶が飛んでたりで曖昧だったり日にちが前後してるかもしれません。ゆるして。

映画化するならエンディングは『真夏の果実』でお願いします。

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あと別れた理由は未だに不明です。部活のストレスを押し付けられたんですかね。そうなると俺は謝ってもらう側ではなかろうか?

 

ちょっとだけ別れてからの話があるので別で書きます。
拙い文章に加え遅筆だったにもかかわらず読んでくれてありがとうございます。バカだなぁと笑ったりなんだかちょっと寂しくなったりしてくれたら幸いです。
おわり。

 

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愛を見たのが幻想なのか。心の渇きが幻想を生むのか。戦いの果てに理想を見るのが幻想に過ぎないことは、兵士の誰もが知っている。だが、あの瞳の光が、唇の震えが幻だとしたら。そんなはずはない。ならば、この世の全ては幻想に過ぎぬ。では、目の前にいるのは誰だ。
次回、『後輩』。

劇的なるものが、牙を剥く。